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 三間坂、という町が有る。


 位置的には近畿辺りのありふれた地方都市だ。


 その町は自然が人を包み込み、その狭間で人々が生活していた昔と違い、いまでは都市と呼ばれるまでに開けた場所になっていた。


 昔は人が見当たらなかった道。


 しかし、今では何処でも舗装された道となり、何処でも人とすれ違うことがある。


 出会うことができる。


 だが、決して高いとは言えない昔ながらの山へと向かうある坂道では、いつも決まった人達のみが歩いていた。


「くっ、わぁ…………ふぃぃっと」


 その一本の坂道には今、一人の制服姿の青年が居る。
 左手人差し指と中指の二本だけで鞄をぶらぶらと背負っている青年が、今、坂道の先、山のふもとに向かって歩いていた。


 彼は右手を挙げ、力いっぱい伸びをし、眠そうに目を細めながら歩いている。
 ゆっくり気ままに歩いているように見えるのだが、無駄な動きがないのか歩く速度は速い。


 伸ばしていた右手も、伸びをした後はそのまま頭をぽりぽりと掻く、無駄の無い動きだ。
 その振動で前髪が気だるそうに揺れる。


 まぁ、こちらは頭が痒いから掻いた、そう考えると無駄と言えば無駄かもしれないが。


 件の青年、元神隆宏(もとがみたかひろ)は、ただいつものように帰宅途中だった。


 『いつも』のように学校を出て、
 『いつも』のように坂道を登り、
 『いつも』のように石段を上がって、
 『いつも』のように神社を横切り、
 『いつも』のように神社横の自宅に帰ってきた。


 今日の学校は別段いつもと変わりなく、最後の授業にいたっては寝ているうちに終わってしまった。
 また、いつもなら部活で楽しんでいるこの時間も、土曜日という名の休みである。


−ったく……修哉(しゅうや)先生の授業って良く分かるんだけど眠くなるのは何故なんだ?


 そんなことを考えながらズボンから鍵を取り出し鍵穴に鍵を挿し込む。


 ここまでの彼の人生はいたって普通――


 ――と言えば、彼は、『普通じゃないだろう普通じゃ……おい』と、一気に老け込みつつしみじみと語ってくれそうだが、
 これから始まる生活に比べれば、今だ普通の枠に収まる程度、となってしまうだろう。


 隆宏は鍵を気軽に廻す。
 カチリという音を確認してからドアに手を架け、引く。


 が、ドアはまるで鍵がかかっているかのように開かない。
 もう一度引いてみる。
 腕には抵抗が残る。


−はぁ? 俺、朝、鍵架けたよな……?


 釈然としないものを胸に抱えつつ隆宏はもう一度、今度は鍵を逆に廻し鍵が開いたことを確認するとドアを開き中に入った。


−じじいはまだ帰ってないはずだし……おいおい、泥棒、か?
−たく、いくら神社だからって家には値打ちもんなんてないってのに……って……。


 と、帰宅一歩目にして苦笑気味の表情から、


「げ……!」


 うめきと共に隆宏の顔が引き攣る。


 なぜなら、彼がいる玄関口には日頃ないはずの女物の靴があったからだ。
 いや、靴というより草履と形容する方が的確か。


−こんな女物の草履を履いてる奴が既に侵入してるって事は……。


 一人の女性の姿が隆宏の脳裏に写る。
 その女性の顔は愉快そうにこっちをむいて笑っていた。
 ……しかも自分に思いっきり、そりゃもう容赦の無いほどに抱きつきながら、だ。


−お、お袋の確率が高いなこれは……


 その想像にくらっと目の前が暗くなる。


−かぁぁ……これなら泥棒の方がましだ…………くそ、逃げるか?


 そんな事を考えながら玄関口でおろおろしている隆宏。
 自宅の玄関で頭に手を当て、困っている様はさぞや間抜けに見えるだろう。


 だが、その姿を見ていた者が居た。


 その者はその間抜けを見ると震える想いを堪える事が出来なかったのか、
 吐息のように漏れ出る、


「ぁ……」


 声が、響いた。


「帰ってきたんですね……隆宏、様……」


 玄関の奥にある廊下からの声は少しキーが高く、清々しく耳に響く声色。


 その声に釣られ、顔を向けた隆宏は、ほぅと感心したように息をつく。
 感嘆の溜息というやつだった。


 視線の先には、一人の少女が居た。


 部屋の奥、いつもは古臭い家屋の奥に、黒髪の少女が居たのだ。


−これは……綺麗な子……だなぁ……


 その目に入ってきた光景に、隆宏は惚けて……。
 そしてじろじろと観察が始まる。


 目は切れ長で理知的な雰囲気を、その中の瞳は本当に綺麗な光をしていた。
 漆黒の髪は顔の左横を流れる一房だけ長い髪が印象的。
 また、黒髪を後ろでポニーテール状にしてあるが、腰下まであるであろうその長さのため全体的にロングに見える。
 その黒髪を追うように視線を這わすと、大きくはないが形の整った胸、細い腰、そして長い足とその視界に入ってきた。


 結論、美人。
 しかもどこかおどおどしている――今も恥ずかしそうにおずおずと上目遣いでこちらを見ている――姿は、可愛い、という要素も備えている念の入り様。


−おおうこりゃすげぇが……誰だこの子は……なんで俺の名前を知っている?
−年は近いようなんだが……。と、それにしても……。


 隆宏は一番重要な事を口にしていた。


 『見事なまでに男の夢を追求したカッコだなぁ……』と。


「はい?」


 少女が隆宏の呟きに反応して聞き返す。
 少し顔を傾げるその動作にポニーテールがふわっと流れる。
 黒滝の如し、だ。


 確かに隆宏がつぶやくのも無理はなかった。
 少女が、魅力溢れる子という点も多大にあるのだが、それだけではないのだから。


 理由は彼女の上が白、下が朱、という服装だからだ。
 こちらも男から見れば多大な魅力を放出する。


 隆宏の実家に伝わる、日本が生んだ神聖な着衣。
 神道の、巫女服を、彼女は着用していたのだ。


−そういや女の子が巫女服を着てるの見るのって久しぶりだよなぁ。
−最後に見た巫女さんは確か……喜寿を迎えたヨシエ婆さんか……は、はは……うう。


 いつも祭りの手伝いに来てくれる笑顔が良く似合う魅惑の80歳に思いを馳せてしまった隆宏は、目の前の少女とのギャップに苦しみ立ち眩む。


−い、いかん……! 地球に優しいモノを見なければ!!


 隆宏にそのような想いで見られているとは少女も露ほどに思わなかっただろう。
 現に、今いきなりよろめいた隆宏を少女はぽかんと見上げていたりする。


 とりあえず大きく息を一つ吐き、気分を落ち着かせた隆宏は、その時思い当たった一番大事な事を聞いてみる事にした。
 衝撃の余り、少し遠回りしたが仕方ない。


「あの〜、何してるんだ――じゃなくてっ、ですか?」


 初対面なので少しおずおずと話す隆宏。
 少女の方もやはり遠慮がちにぼそぼそと返す。


「え、と……これからこの家にお世話になる事になっているんですが……。……巍然(ぎぜん)様から、その、聞いてません?」


−巍然、ねぇ………………あんのくそじじい……。


 隆宏はそう胸の内で巍然を呪う。
 今度は口には出なかったようである。


 巍然というのは隆宏の祖父にあたる人でこの神社の宮司を生業としている人物だ。
 なかなかにワイルドな性分の巍然は持病の放浪癖が再発し、3日程前にふらりと何所かへ行ってしまっていて、今この場には居かったりする。


 どうやらこの少女はその巍然と知り合いらしい。


−放浪する前に一言、言っとけっつ〜の。


 と、たらたらと何処かの地にいる巍然に向かって文句を並べている隆宏の前で、その少女は腕を抱え込むようにして上目使いで隆宏を見てきた。
 その仕種にも隆宏は可愛さを感じてしまい、少し頬を赤らめる。
 

 男が照れる様は余り可愛いものではなく、特に今くねくねと身体全体で照れている隆宏。
 こちらは可愛いはずも無い。
 可愛いはずもない、というかむしろ害悪であろう。


 しかし、その様子を目にしても果敢に少女は話しかけてきた。
 奇跡と思える、が、少女には少女のどうしても聞かなければならない事があったからだ。


「あの、えと! ……その、ですね……」


 ごにょごにょと口篭もりつつ、


「私の事…………」


 静かで、声は小さかったが。


「憶えてない……かな」


 はっきりと耳に入る声で少女はそう言うと少し恥ずかしそうに目を伏せる。
 が、隆宏はというと、


−俺が君を、か?


 予想だにしなかった言葉を掛けられ、深く悩んでいた。


 友人達から「同じぐらい寝てるのにっ、なんでお前だけぇ!」と苦悩される原因、常に『学内テスト成績上位10傑』を獲得している頭脳でも、これだけ悩んだ事は久しぶりだ。
 が、どうにも出てこない。
 相手はこれだけ印象に残る少女なのに。


「ん〜……んんん〜…………あ〜え〜っと……その、ゴメン、名前聞いてからでも……いいかな? ダメ?」


 その言葉に期待を裏切られたのか、少し顔を陰らす少女。


 その表情を見て『デリカシーに欠ける』という言葉が隆宏の胸のうちに広がっていく、が、簡単にその言葉を打ち消す想いが出てくる。


−じじいが悪いんじゃねぇか……。


 が、その免罪符も次の一言で吹き飛ばされた。


「静音(しずね)です。 ……憶えてない、ですか? 昔一緒に暮らしてたのに……」


「へ?」


 そう。
 これが隆宏の元に舞い下りた、日常をくつがえす出来事の始まりだった。

ただいま巫女さん修行中


第壱話 『覚えていますか?』


Written by 津々羅

00.08.07 過去遺産をそのままUP     
01.03.05
とりあえず第一回目のリライト!
01.03.07 二回目、一応完成〜、のはず…
02.05.27 やっぱりまだまだ文章おかしいかったから直す(´ω`;)


「静音って……?」
「静かな音と書いて静音、です……。もしかしてぜんぜん覚えてない……です……か?」


 隆宏の前にいる静音の顔にどんよりとした影が落ちた。
 美人の顔というのは見ていて飽きないが、気落ちした暗い顔になると悲壮感がより一層強化され、ある意味、手におえない。
 それはどうやら隆宏も例外で無かったようだ。


「ちょ、ちょっと待とうな」


 そう言うと隆宏はくるりと静音に背を向け人差し指を額に当て、目を閉じる。
 人が悩むと行う、古来からのポーズだ。


−おいおいおいおい……本気で覚えがないって〜の。これだけの美人だぜ? 一度でも見たら大概忘れんと思うが……。


深く考え込んでいる隆宏からはウ〜とかア〜など、うなり声が聞こえてくる。


「あの〜」


 対話というのは一人が脱落すると、もう一人は途方にくれてしまうもので。
 先ほどの暗い顔は何処に行ったのやら、隆宏に少し遠慮がちに自分から声をかける静音。
 今ほって置かれるのはどうやら辛いようだ。


−一緒に住んでたって言ってたよなぁ。俺とこの美人が一緒にか? そんな極上な日々、過ごしたっけ俺……。


 だが隆宏は一向に悩み続ける。


「あのあの〜」


い つのまにやら座り込んでいる隆宏に向かって静音は2度目の呼びかけを行うが、まだ隆宏は向こう側。


−一緒に過ごすっていうとあれだな。『今日はお風呂、食事? それとも……』とか『ちょ、ちょっと! こんなところで……あ……』とかバリエーション豊富――
−――って駄目だぁ! こんな青少年の主張してどうするよ俺!


 自分の思考に自分で突っ込むと言う離れ業をしつつも、真剣に考え込む隆宏。
 もともとキリッと引き締まった顔つきのため、このような表情が良く似合う男だ。
 彼の通う学校では、この表情に転ぶ女生徒も多いという。
 だが、顔からは考えが読めないという証明がここにある。


「あの……………………。はぁ……」


 声をかけようとして、だがその隆宏の様子を見ると自然と出る溜息。
 それとともに諦めることを決意する静音。
 

 彼女は半眼でジロリと隆宏を睨む。
 が、隆宏はその視線に気付かない。


−でもまぁ……やはりはずせないのは『裸でエプロン』とか『お風呂で』とか『制服で』とかになるな……。
−いやいやいやいや……重要だ、重要だゾ隆宏! もっとしっかり考えないでどうする!


すばらしくだらけた顔になった隆宏の背後では、相手にされなくなった静音がごそごそと袖奥を弄っている。
と、隆宏、ついに閃く。


「なぁ! 君って巫女さんなんだろうけどメイドさんとかもって、おいおいおいっ!?」


 が、期待を持って振り向いた瞬間隆宏の顔は強張る。


 なぜならその振り向いた先には静音が裂帛の気合と共に、銀色の棒を振り下ろす瞬間であったからだ。


−半身上段からの打ち下ろしか?!


「っ!!」


 そう隆宏が心で叫んだのも束の間、素人では出せない速度で自分に向かってくる銀色の線。
 普通の人なら動揺し、動けないまま食らうしかない一撃。


−って、当たると痛そうだしっ!


 が、隆宏の頭上に影が架かった一瞬、隆宏は素早く後ろに1歩、ただ1歩のみ移動。
 直後に目の前を閃く光。
 隆宏は避けざまに銀光の先端に白い点を知覚。


 それを目にしたとき隆宏の中で全てが繋がり……。


 そして軽い地を打つ打音が響く。


 どうやら隆宏は普通の人ではなかったようである。


 静音が打ち下ろした棒の先を見る。
 視線をゆっくり上げた彼女には感嘆の表情が見て取れた。


「ふわぁ……! もう人じゃないですね、隆宏様!」


−褒め言葉のようで褒めてないような気がするな、おい。


 後頭部に汗を掻く隆宏。


−ま、でも……


「地道な鍛練の成果と言えって……なぁ、シー君……」
「あ……! やっと思い出してくれたんですねっ!」


 静音の表情がパッと明るくなる。
 大輪咲きという言葉のように花が咲き誇るような笑顔。


「まぁ……なぁ」


 隆宏はその表情に照れて鼻を掻きつつ、視線を静音の右手、銀の棒に向ける。


「まだ持ってたんだな、そのポインタ……」
「うん…………だってモト君から貰った物ですから……」


 そう言いながら静音は銀の棒を押し縮めていく。
 コンパクトなペンシル題の大きさになった、先端が白いポインタを見ながら彼女は物思いにふける。
 目を細めているその姿。
 どことなく優しい雰囲気が彼女の身を包む。


「あの時からもう10年が立つんですねぇ……」
「はぁ〜……早いもんだ。あの時は二人ともガキだったのに……。やんちゃだったからなぁ、俺達」


 その言葉にふふっと笑う静音。


「私にはとても長い時間だったんですけど」
「そうかぁ?」
「私だと気付いてくれなかったのは……その……ちょっと、寂しかったです……」
「はは……ごめんな」


然(さ)して意味が無いように相づちをうつ隆宏を、静音はどう取っただろうか……。


「しっかし、なぁ……ふぅん……へぇぇぇ……」


 隆宏は感心の声――唸り声とも言う――を挙げつつ、幼馴染の変化を改めて確認する。
 先ほど出会った時のように自分を見てくる隆宏に静音は動揺。


 が、別段その行為によって動揺したのではなく、普通はジロジロと見られたくは無いはずなのに今はその視線が心地よく感じる事に静音は当惑したのだ。


「な、なに?」
「シー君って……ほんと〜に、男じゃなかったんだなぁ……」


 一瞬の空白。
 と、同時に静音の肩がすとんと落ちる。


「ずっと男みたいなカッコしてたから最後まで分からんかったからな俺」


 その静音の表情を喩えるなら目が点になるという言葉が適切だろう。


「しかも自分のことずっと『僕』って言ってたろ……。半袖、半ズボンだったし、ばけもんみたいに喧嘩強かったし……」


 その言葉に静音は手をばたばたさせつつ反論開始。


「だ、だってしょうがないじゃないですか! ……お父さんが男物の服ばっかり買ってくるんだし……。喧嘩が強かったのだって巍然様とモト君のおかげだったしっ!」
「おかげで俺、シー君が女の子だって知った夜は凄まじかったんだぞ……」


 昔の自分とシンクロし気まずい想いが広がった隆宏は、つと視線を逸らしてしまう。


「食ってるそばは吹出すわ、夜は寝れんわ、殴ったり蹴りいれたりした事に頭抱えるわ、いっしょに風呂入ったこと思い出して苦悶するわでなぁ……。一番悔んだことが電気按摩かましたことだしよ。……しかも確か引越しする前日だったなぁ……」
「うぅ〜……」


 頭に手を当て、困ったポーズを取っている隆宏だったが静音からは惚けた声が聞こえてきた。
 視線を元にやると目の前には少し拗ねた静音が居る。
 昔との違いに少し違和感を感じるが、拗ねる姿はそれでもやはり静音本人だった。


−シー君なんだよなぁ……この女の子は……。


 その姿に隆宏は苦笑。
 やっと隆宏の思い出の中の幼なじみと目の前の少女が重なった。
 旧知に出会えた嬉しさが広がっていくが、そこで始めの会話が思い出された。


『これからこの家にお世話になる事になってるんですが』


 平凡な言葉だが、意味は深い。


−そういやお世話になるっていってたっけ?


「なぁお世話になるって言ってたような……ど〜ゆ〜ことなんだ?」


 もっともな事を隆宏は静音に質問する。
 というか『いの一番』に聞かねばならなかった事なのだろうが、ここまで伸びてしまったのだ。


 静音は少し姿勢を正して話し始める。
 こういう事はちゃんと話さないといけない、そんな風に思っている事がそのままぴんとはった背筋に現れていた。


「えっと……私、今、巫女の修行をしていて……今までは東京の神社で教わっていたんです。それが……ちょっとした事情で……」


 少し気落ちした表情を見せた静音に隆宏は『?』とした視線を向ける。
 その視線に気づいた静音はてへへと笑って、


「で、こちらに戻って来ることになって。それで以前から巍然様に『こっちにこないか』って言われてましたから、この元神神社でお世話になることにしたんです」


 巫女の修行で来た、それだけじゃないですけれど……ね……。


 ぽつりと静音が言葉を紡ぐ。
 ほとんど口が開いただけの微音。
 その声は隆宏は聞こえていない。


「って、ことは……じじいとは前から連絡を取り合ってたんだなぁ……」


−たく、そんな素振りは全然無かったのに……。あのエロじじいめ……俺にも関係あることだろうが!


 取りあえず脳裏でどう仕返しをしようと考えていた隆宏だが、ふと、ある事に気付き静音に質問する。
 その事実に、唐突に隆宏の口が半開きになり、ついでごちょごちょと漏れ出す声。


「い、一緒に住むのか!? い、一応俺も18歳の青少年なんだけど、そのへん……そのなんだ、あれだあれ、そうだ、そうだ、自覚自覚だ、自覚ある?」


 と、隆宏は珍しく慌てて問う。
 なにせ一緒に暮らしていたといっても小さい頃のことで、しかもあの時男だと思っていた子がじつは女の子、あまつさえ美少女なのだから。
 動悸が激しくなるのも仕方がない。


 だが、静音はというと、


「ん、モト君だから……いいですよ♪」


 ふわっと事も無げに言う。


−ど、どういう意味だよおい……!


 この静音の言葉を隆宏が男らしく考えてしまってもしかたあるまい。
 先ほどの言葉で意識してしまった隆宏の表情には赤みが射していた。


「い、いいのか……そうかなら、べ、別にいいけど……。あ、あれだなぁ……な、なんか無茶苦茶女らしくなったからなぁ……その、シー君は……」


 と、少し言いよどむ隆宏。
 目の前の大きく変わった幼馴染には、昔の男友達と思っていた頃の『シー君』という愛称は、少し言い辛かったからだ。


「そ、そうですか?」


 静音がおずおずと隆宏を見返してくる。


「いやほんとほんとに女らしいって! 『シー君』って昔みたいに呼ぶのでさえ、男っぽいあだ名だからなんだか呼びづらいんだしっ!」


 力を込めて言う隆宏に静音は軽く笑いながら、


「くすっ、じゃぁ、ですね…………私の事、『しずね』って呼んでくれませんか?」


 言って今度は静音が真っ赤になる。
 そして自分の黒髪をおずおずと弄くりながら、


「あんまり他人行儀だと寂しいですし…………隆宏様には、そう呼んでもらいたいです……から……」


 下を向きつつ語尾が小さくなって行った。
 が、言いたいことは隆宏には伝わったはずだ。


 言われた隆宏もちょっと照れくさくなりつつも、その意見を受け入れようと思っていた。


−静音、か……ちょっと照れくさいなぁ……。
−でも…………そうだな…………幼なじみが、帰ってきたんだ…………これで断ったら俺が廃るぜ。


 一回こほんと咳をしつつ、隆宏は自分の新しい家族を迎え入れる言葉を発する。


 幼馴染が戻ってきた、それを迎え入れる言葉を。


「ま、なんだ……」


 一つ溜めを入れ、


「おかえり、静音!」


 隆宏が大きく、しっかりと迎え入れる言葉を静音に贈った。
 

 その暖かな言葉に対し、静音はぺこりお辞儀。


「はい! 元神神社の巫女として、守代静音(かみしろしずね)、これよりお世話になりますっ」


 そう言い切った後、視線を隆弘に合わし、


「よろしくお願いします、ですっ♪」


 にっこりと笑った。

                                
第弐話へ [感想掲示板]


後書き (written by 津々羅)

んでもって始まりましたこのシリーズ。

おそらく私の作品の中で最も長く、時間を費やしながら続いていくシリーズになると思います。

少しでも楽しんでいただけたらこれ幸い。

静音と隆宏との物語を見守ってやってください!

 

(01/03/05)

3年ぶりにリライトしました。
読み返して、3年前の自分の文章に凹んだので急遽(^^;
とりあえずの軽い改修ですが、かなり印象が変わると思います。
ほんといままですいません〜
はひー……



(01/03/07)

これで一応完了、かな?

 

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