第1話 かけめぐる青春
 

サンデー掲載号:昭和53(1978)年39号  コミック:1巻-1  ワイド版:1巻-1  文庫版:1巻-1
しのぶの出番:○ 魅力:◎ 活躍:◎ 印象:○

 

   

 扉ページ、あたるに背負われるしのぶ。
 …もう、これだけで萌えます…
 かわいい女の子とそれを必死に支える男の子という姿のためでしょうか。
 また、この時のしのぶの格好も良いです。私はしのぶの服装は、初期の普段着が特に好きなのです。変に飾らないシンプルなところがとてもかわいらしく感じられ、活発そうに見えて良いのです。

 そして、ページを開くといきなりの張り手です。
 始まった途端にしのぶは「あんたなんか大嫌い !!」と言いながらあたるに張り手をくらわし、「もう絶交よ !!」と言いながら走り去ります。そしてあたるは「なんでえ!ちょっとほかの女をみただけじゃないか!」とつぶやきます。
 たった半ページの3コマでこれだけのことをやってしまうのです。すごいインパクトです。
 (ついでに言うと、次にはすぐに錯乱坊が現れてまた一騒動あります。なんというテンポの良さなのでしょうか。また、それでいて何がおこっているのかもよくわかります。これが「うる星やつら」の凄さだと思います。)
 現れてすぐ去っていったはずのしのぶですが、わずか2ページ後(つまりは、ページを一回めくっただけ)にまた登場します。しかも今度はあたるを大変心配している様子です。さっき「絶交よ !!」と言ったばかりなのに…。あたるとしのぶの深い関係を思い起こさせます。
 そしてあたるにインベーダーとの勝負が告げられます。それを受けてますますあたるを心配するしのぶです。本当にいじらしいです。
 勝負は鬼ごっこだとわかり、しかもその相手はグラマーな女の子です。そこであたるは「女たらし」(しのぶの言葉より)のところを出して、しのぶに引っ掻かれるわけですが、それはよくあることなのでしょう。こういうことを含めて良い仲のふたりです。
 ところが鬼ごっこは大苦戦です。そこでまたしのぶは心配になって家を訪ねてきます。本当にあたるのことを思っています。それを受けてあたるは翌日から張り切ります。しかしそれでもとても勝てそうにありません。
 ついにしのぶは「勝ったら結婚してあげる !!」と言い、「わたし、あなたが一生日陰者で暮らすのが耐えられないの!」とまで言うのです。
 「結婚」とは言葉では一言ですが、それは一生に関わる大変重いものです。まして、まだ高校生であり、相手は何かと苦労させられることが確実なあたるです。今この場でそのようなことを言うとはかなり思い切ったことだと思います。
 確かに「勝ったら…」ということは負けた場合はしないということにもなるのですが、さすがに普通の女の子に一緒に「一生日陰者で暮らす」ことまで求めるのは無理なことだと思います。(そこのところがいまひとつ足りないところだと言われればそのとおりなのではありますが…。)
 しのぶにそのように言われたあたるは大喜びです。しのぶと「結婚」できることはよほどうれしいことのようです。その結果、見事にあたるはラムに勝利することが出来たのです。いわばあたるが勝ったのはしのぶのおかけだと言え、もちろんあたる自身も頑張った(一日中走ることだけでも大変なことです)わけですから、地球が救われたのはあたるとしのぶふたりのおかげだと言えます。それなのに最後のあの仕打ちとは…。

 このように見ていくと第1話は、本来はあたるとしのぶ中心の話に思えます。結末についても、これであたるとしのぶの関係が終わってしまったわけではないわけで、ふたりが結ばれるための障害のひとつにすぎないとも言えます。物語で障害があるのは(なければ話にならないわけで)当たり前のことです。さらに次の第2話にはラムは出てこないわけで、うる星やつらのはじめはあたるとしのぶ中心の話であったと言えます。

 −−としのぶ好きとしては、断言したいのですが、残念ながらそう簡単にはいかないようです。
 まず、人物の登場の仕方ということを考えてみると、あたるとしのぶがはじめに出てくるという点では、あたるとしのぶが中心だということになります。ところが、ラムについても満を持しての登場という形になっていて、非常に目立つ結果になっています。敵の登場ということでそうなったのでしょうが、一話限りの敵キャラとするにはインパクトが大きすぎたようです。
 さらには結婚の約束についても、形だけを見ると、しのぶではなくラムの前で「結婚するのだ」と確かに言っているのです。しのぶに言われた時も、あたるの喜んでいる姿から明らかなのだけれども、あたるからの返事も言葉ではないのです。形式にすぎないこととはいえ、結婚というようなものでは形式も重要なものです。しのぶにとっても、あたるの喜んでいる姿を見ているので言葉での返事がないからといって、直接どうだということはないのでしょうが、疑念を抱かせる下地にはなっているかもしれません。

 

  <しのぶに関係する名台詞> 
    あんたなんか大嫌い !! もう絶交よ !!
(2ページ目)
いきなりです。
 
わたしニュースを聞いて… 心配で!心配で!
(5ページ目)
「絶交」したばかりなのにこの心配の仕方です。ところで、ニュースを見てあたるの名前が出てきた時はびっくりしたでしょうね。
 
だめよっ!鬼なんかとケンカしたらあたるくんは死んでしまうわ!
(7ページ目)
あくまであたるのことを心配するしのぶです。ただこれに限らず、このあたりのしのぶのセリフは決して変なことを言っているわけではないのですが、なんか微妙にズレている気がします。
 
あたるくん 勝ったら結婚してあげる !!
(21ページ目)
あたるを助けるために重い決断をします。でもいきなり結婚なんて…。普段からあたるは結婚したいとでも言っていたのでしょうか。
 
わたし、あなたが一生日陰者で暮らすのが耐えられないの!
(22ページ目)
「一生日陰者で暮らす」とは…。どのような状態なのかも気になりますが、そのような表現がどこから出てくるのかも気になります。それにしてもやはりあたるのことを思っています。
 
結婚のためにはどんな卑劣な手段を使ってもいいのだ !! (あたる)
(22ページ目)
あたるはよほどしのぶと「結婚」したいようです。ただ「卑劣な手段」というのは思わぬリスクがあるように思います。実際に直接の原因ではないかもしれないですが、良くない結果になってしまいます。
 
あたるくん !!  あたるくん! あたるくん!
(24ページ目)
こう言いながら人の渦をかき分けてあたるのもとに行こうとします。3回も言うこともあいまって、よほどうれしいことがわかります。普通なら感動の場面になるはずだったのですが…。
 
さだめじゃ !! (錯乱坊)
(25ページ目)
あたるの受難の運命と、錯乱坊の存在を象徴する簡潔な言葉です。ただ、あたる自身だけでなく、あたるとしのぶの関係がうまくいかないという「さだめ」というも解釈もあり得るかもしれません…。

 

  <しのぶの怪力>
    あたるに平手打ち  …初登場シーン
(2ページ目)
あたるが他の女に気をとられたから?
 
あたるの顔にひっかき傷等を残す(実際のシーンはなし)
(8ページ目)
ラムのグラマーな色香に迷っての言動に怒って

※まだこのあたりではとても怪力とまでは言えないですが、これらのことがエスカレートしていき、怪力につながっていったように思われます。

 

  <しのぶ関連以外で気になること>
     話の結末ですが、考えてみれば結構悲惨な話だと思います。しのぶは重い決断をし、あたるは大いに頑張ったのに、あのような結果となってしまったからです。あたるについてはさらに、鬼ごっこで苦戦している時のまわりの人間たちの対応もひどいと思います。勝手なことを言い、責任を押しつけ非難までしています。(親さえもそのような態度です。あのアニメで有名な「産むんじゃなかった!」というセリフがここで出てきます。だからなおさら、しのぶの行動が光るのですが…。)本人は今まさに必死に頑張っているのは確実です。しかも、もともと(「色香に迷ってかるがるしくひきうけ」たこと以外は)あたるに責任があるわけではないばかりか、あたるが引き受けなければどうなっていたかわからないのに…。現実はそのようなものだと言えるのかもしれないですが、そのような現実をこのような面白い漫画で見せること自体が、特筆すべきことのように思えます。
 要するに、話全体は喜劇なのだけれども、ある部分に注目してしまうとかなり悲惨なことがおこっているというわけです。しかも面白いことと悲惨なこととは別のものではなく、まさにその部分を外から見ることによってズレの面白さを出しています。つまりギャグの中に深刻なことが含まれているということです。
 楽しいこと、面白いことにも裏では深刻なことが起こっている…そう考えるとちょっと嫌な気分にもなってしまいますが、逆も成り立つわけです。深刻な事態も笑える、楽しめるところがあり、笑い、楽しむことができれば深刻なことも少しは気が楽になるということです。(あたるとしのぶの行動はそういう観点で見ると、地球の運命を背負わされたという深刻な事態を自分たちの結婚というものに置き換えた点で、まさしくそれに合っていることになります。)実際はそう単純にうまくはいかないでしょうし、特に現実に被害を受けている者からすれば、そっちが被害を与えているのにそれを楽しめとは何だということになりますけれども…。

 第一話で早速登場した錯乱坊ですが、錯乱坊が現れた直後にインベーダーの登場というとんでもないことが起こっています。そのとんでもないことに引き付けられて来たのでしょうが、あまりに直前すぎます。これでは錯乱坊の登場がきっかけであるかのようにも思えます。そのためあたるは錯乱坊を嫌っているのでしょうが、あたる自体も「鬼でも宇宙人でももってこい!! 」と言った途端に、鬼の姿をした宇宙人が現れたのです。 

 あたるの母、着物なのですね。それだけのことですが、なんか凄いと思ってしまいます。あたるの父も家の中では和服ですね。当時はまだ普通の人でも着物を着る人が多かったのでしょうか。

 あたるの友人がふたり出ていますが、彼らは次の話からは出てきませんね。ひとりは白井コースケに大変似ていますが、やはりコースケなのでしょうか。

 鬼族の侵略って何だったのでしょうか。目的も気になりますが、どれぐらい本気だったのかも気になります。「ほんまもんの合戦」が玉入れだった(第10話「いい日旅立ち」)ことからすると、侵略もたいしたものではなかった可能性すら考えてしまいます。そうだとすると地球人の反応が滑稽であり、悲惨ですらあります。もっとも鬼族にとって鬼ごっこには重い意味がありそうなので、いい加減な対応はできなかったと思います。

  

 

第2話 やさしい悪魔

 

サンデー掲載号:昭和53(1978)年40号  コミック:1巻-2  ワイド版:1巻-2  文庫版:1巻-2
しのぶの出番:◎ 魅力:◎ 活躍:◎ 印象:◎

 

   

 しのぶ好き、特にあたるとしのぶの幼馴染ぶりが大好きな私にとってはたまらない回です。この回を見る時はいつも舞い上がってしまいます。
 
 何といっても、かわいいしのぶがたくさん見られます。そもそも出番が多いうえに、どの場面のしのぶもとてもかわいらしく、しかも活き活きとしています。第1話でも書きましたように、しのぶの服装もその雰囲気に合っていて大変良いです。こんなしのぶが見られるのはこの回だけかもしれません。やはり不機嫌になる場面がないためでしょうか。本来のしのぶは(あたるとうまくいっている時は)いつもこんな感じだったのではないかと私は思っています。
 なお、活き活きとしていると書きましたが、一般的なしのぶのイメージとは少し異なっていて、初期のしのぶは結構活発な気がします。たしかにラムと比べるとそうは見えないのかもしれませんが、比較相手が悪すぎます。ある意味、ラムにそんなところが吸い取られたのかもしれません。そのような活発なしのぶも私はかなり好きなのです。もちろん一般的イメージである控えめなしのぶも好きなのですが。
 
 そして、あたるとのつきあいの様子も好きです。冒頭のふたり一緒にいる場面(錯乱坊に邪魔されますが)や、ボールがぶつかった時のあたるを心配する様子、悪魔との騒動の時のふたりの様子など良いところがいっぱいあります。
 そのような中でも特にスイカを持ってくるところが最高です。まず、スイカというのが良いのでしょう。お見舞いとして重いものをわざわざ持って来たのだけれども、全然そのような感じはなく、普段通りに感じられます。そもそも、庶民的で、夏や元気を感じさせるスイカはあたる(とそのあたるにつきあうしのぶ)に似合っている気がします。さらに、気軽に家に入ってくるところや、あたるの母とも親密なところも良いです。
 このような普通の男女では少し考えにくい、いわば幼馴染特有の関係(勝手な妄想な気がしますが…)が私は好きだったりするのです。(まだこん段階では小さな頃からの仲だと直接触れているわけではないですが、このような様子からそうであろうと思えます。)
 
 もっともこのようなしのぶの魅力は、まだ子供であるということの裏返しでもあるわけですが…。 
 
 ところで、この回のあたるは混乱する母をすぐに抑えたり、しのぶに襲いかかった悪魔を倒したり(やりすぎでしのぶを怖がらせてしまいましたが…)するなど、何だか非常に頼りになる印象がします。

 

  <しのぶに関係する名台詞> 
   

ふたりっきりにはなれそうもないものねー!
(2ページ目)
ふたりっきりになりたかったのに、錯乱坊に邪魔されて残念な結果に。ただ、ふたりっきりになって何をするつもりだったのでしょうか。
 
あーっははは !! あの錯乱坊が高僧〜 !? ひ―――っ !! おかし――っ !!
(12ページ目)
いくらんなんでもこんな笑い方しなくても…。やはりあたるといっしょにいるとこんな感じになるのでしょうか。それはそれで活発で私は大好きなのですが。
 
笑ってる場合じゃないでしょ!
(12ページ目)
自分も散々笑っていながら…。あるいは自己ツッコミなのでしょうか。

 

  <しのぶの怪力>
   

怪力はなし。それどころか悪魔に抑えこまれています。本来は普通の女の子なので、むしろこっちのほうが自然なはずだったのでしょうが…。

 

  <しのぶ関連以外で気になること>
   

 前回の大騒動があった後のはずなのに町は平穏そのものですね。ラムたちはあっさり帰ってしまいましたし、あたるは地球を救った英雄のような扱いはされていません。ひょっとしたら記憶操作等で騒動自体がなかったことになってしまっているのではとさえ考えてしまいます。それでは錯乱坊と知り合いになっている理由がなくなるなどの問題があり、そんなことはないとは思いますが、ある程度騒ぎを収める情報操作あたりはおこなっている可能性はあると思います。一話完結型の話では前回の件はどうなったのというようなことはよくあることであり、本当のところはそこまで深く考えていないということでしょうけれども…。
 なお、ラムたちに帰ってもらったのは、そちらの星には行けないということを理由に結婚を解消したのが一番納得できる気がします。そう考えれば、次回に今度はラムのほうが地球で暮らすことにしたことと辻褄が合いますし。

 はじめの部分であたるはボールがぶつかっただけであんなに痛がるという、後のあたると比べると考えられない場面があります。まだこの段階では普通の人間なのですね。この回のあたるは頼りになると書いたことと矛盾しているようですが、「頼りになる」=「人間離れした力がある」ではないですし、いざという時は…ということもあるのでしょう。
 
 あたるは悪魔が現れたことに対して錯乱坊に怒っていますが、錯乱坊がいなかったら鏡に吸い込まれていたようにも思えます。
 
 この回は私にとってはこれまで書いてきたように非常に良い回なのですが、一般的には話の面白さとしては前回や次回以降と比べると少し良くないかなと思います。そのことが次話でラムが再登場することにつながったのかなと思います。

   

 

 

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