山吹頭巾−55




 次に山吹頭巾は、南の手首をまとめて封じていた片手を外すと、口元に動かしました。
 指が伸びて触れた先は、南の牙です。

「っあぁ!」

 痺れた両手で、南は山吹頭巾の肩を掴みました。
 牙は、耳やシッポとは違ってオオカミの武器なのです。
 人間の犬歯とは比べ物にならない鋭さで、その気になれば肌や肉をたやすく裂いてしまうことができるのでした。

 制止する南の気も知らず――いや、知っているからこそ従わないのか、山吹頭巾は怒りの形相でこう言い放ったのです。

「テメ、オレを舐めてんのか? テメェが男にヤられそうになってるって時に、ふざけたマネしてんじゃねェぞ!」

「何言ってんだよ……。お前、ほんとワケわかんねえ。どけよ! おれはこれ以上お前にケガさせないでいる自信はない」

 首を振って山吹頭巾の拘束から逃れた南が、常になく険しい表情で告げます。
 しかし、それ以上の剣幕で山吹頭巾が怒鳴り返してきました。

「それが舐めてるってンだ! オレはマジでテメェを犯るぜ。テメェが泣こうが喚こうが構わねェし、マグロで通すならそのまま食う。だが、オレにケガさせねェでいる自信がねェ、だと? オレはテメェに手加減されるいわれなんざねェんだよ! 傷付けるのが怖いってのか。ハッ、このナマクラの牙で何ができるってんだ」

 先ほど、南の鋭い牙に触れたばかりの山吹頭巾が、それをあえてナマクラと切り捨てます。

 南の目には、動揺が稲妻のように走りました。
 これまで、他を傷付けないための思い遣りだと思って選択していた自分の生き方を、相手を馬鹿にした手加減だと断じられたからです。

「おれは、そんなの、そんなつもりじゃ……」