これからのエネルギー

 

2013年9月から2016年8月までの3年間に、朝日新聞や日経新聞に掲載された記事を中心に、[温暖化][電力][天然ガス][再エネ][原子力][その他]に分類してまとめたものです。

地球温暖化への対応

 エネルギーは安価で太陽にある時代が、長年にわたって続いてきましたが、今後はこのような時代と決別し、スマートで効率的なシステムを構築しなければなりません。将来においても完璧なエネルギーやテクノロジーというものは存在しないでしょうから、これらを多様化させる必要があります。

 外部不経済の内部化(汚染責任者に賠償金を科すもの)からなる汚染者負担原則を実現するのは難しいと思います。2008年の「気候変動・エネルギー政策パッケージ」において、2020年までに1990年比で、@温室効果ガスの排出量を20%削減、Aエネルギー効率の20%改善、B再生可能エネルギーの寄与割合を20%まで引き上げる、という「2020年までの3×20の原則」という大胆な目標を定めましたが、大きな変化をもたらすまでには至っていません。

エネルギーをめぐる経済

 私たちが日常的に消費するエネルギーは石油33%、石炭27%、天然ガス21%と80%以上は化石エネルギーであり、再生不可能なエネルギーです。

 石油の埋蔵量は、きわめて豊富です。2010年の世界の石油消費量で計算するとまだ46年分もあります。地下に眠る石油の埋蔵量に限りがあることは確かですが、確認埋蔵量は、原油価格、採掘コスト、採掘技術など、非常に多くの要因に左右されます。「ピークオイル」という日がいずれ訪れることは間違いありませんが、経済成長などの需要側の要因や、今後決定される環境対策などにも影響されるでしょう。また原油市場には原油の現物市場と金融市場が共存していることが挙げられます。

 天然ガスは、シェールガスの生産量が予想外に順調な発展を遂げたために世界の天然ガスをめぐる様相は、ここ数年で一変しました。在来型の天然ガスにシェールガスを加えると埋蔵量は250年分になると言います。しかしながら、水圧破砕による生産方式のために大量のエネルギーと水が必要であり、シェールガスを開発する方が温室効果ガスの排出量が増えると言われています。生産コストは石油と比較すると輸送費が7-10倍も費用が掛かります。長期的には発電需要は増えるが、原子力発電が後退するため、原油価格と同様に上昇するとみられています。しかし、石炭よりも環境負荷が少ないため、エネルギー市場における変化の中核となるでしょう。

 石炭の埋蔵量の分布には政治的なリスクや安定供給の面で石油よりも安定感があります。石炭火力発電が比較的安価であるため、石炭の需要は伸びています。石炭の利用者は地球環境負荷のコストを負担しないため、CO2排出によって地球温暖化の進行が加速しています。CCS(Carbon Capture and Sequestration)はかなりのコストが掛かるため一般には利用されないでしょう。

 原子力は次世代の原子炉が稼働し、更に核融合が成功すれば非常に安価なエネルギーを生み出すだけでなく、無尽蔵のエネルギーになる可能性がありました。しかし、2011年の福島第一原発事故以来、原子力産業が抱えるリスクに対する懸念が再発しました。現存する原発の稼働管理、老朽化する設備への対応、原発の新規建設の推進や凍結など原発が抱える問題は世界各国で異なっています。しかし原子力の推進は正しい選択であると確信している国が存在する限り原子力は終焉を迎えたわけではありません。

 再生可能エネルギーの本質は、地域ごとに利用できる様々な資源を、これまでにない組み合わせによって地域分散型のエネルギー・システムを作り出すことにあります。この分野は技術革新のみならず、企業及び雇用の創出余地があります。

エネルギー政策

 エネルギー政策を立てる際の条件は、エネルギー・システムが長期的な持続性を担保したうえで、人類の要求を満たすものでなければなりません。また現在のエネルギーが気候に及ぼす影響を考慮すれば、政策における優先課題は需要に対して働きかけることです。エネルギー消費を20%削減しても我々の主要な欲望は満たすことが出来ます。

 150年ほどの間に出来上がった現在のエネルギー・システムの80%は化石エネルギーによって賄われています。これからのエネルギー・システムには、スマートグリッド、スマートシティ、スマートビルディングの発展が必要です。現在のものよりかなり簡単なものとなる、このようなエネルギー・システムは、再生可能エネルギーが主導権を握り、エネルギー効率の改善が主要な役割を担います。新システムへの移行には、かなりの時間が掛かります。このシステムはまさしくエネルギーの生産と消費のあり方を根本的に変えるものであり、私たちの社会モデルや経済成長モデルを変革しなければなりません。

 再生可能エネルギーを推進し、エネルギー効率を改善するためには、新たな「価値連鎖」や新たな組織を生み出す必要があります。同時に消費者力、エネルギー供給者と相互作用を強め、自らの利便性を意識し、率先してエネルギー問題に取り組むことです。

道筋は前途多難

 私たちは信頼できる再生可能エネルギーを大規模に開発するだけではなく、生産されたエネルギーを輸送及び貯蔵し、発電の際に炭化水素エネルギーや石炭が発生する二酸化炭素を隔離し、家庭及び産業部門におけるエネルギー効率を大幅に改善させ、公共交通機関や個人の輸送部門における電力の用途を拡大させていくことなどです。同時に温室効果ガスの排出量を制限することが求められています。つまり、今世紀末の時点での気温の上昇を2℃以下に抑えなければなりません。1990年時点を基準として少なくとも50%削減するように提唱している。この目標はコペンハーゲン会議及びカンクン会議の際に合意できず、今後も合意に至らないだろうため、温室効果ガス排出削減に向けた取り組みは遅れるとみられ、達成不可能だと言われています。従って今世紀末までに気温の上昇幅を抑えることは難しいと思われます。

 これまでに排出された温室効果ガスの三分の二は、19世紀から工業化した先進国のものであるため、それらの国には歴史的な責任があります。先進国は更なる努力により、少なくとも温室効果ガスの排出量を80%削減すべきであると言われています。このような目標を達成するにはエネルギーの生産システムを変革するだけでなく、エネルギー資源の浪費をやめ、全産業界において抜本的改革を断行する必要があります。

 2000年代には気候変動という脅威に対する意識が芽生えたが、これに社会全体で正面から立ち向かおうとするまでには至っていません。どのような取り組みをするのかという認識が、特に大排出国である中国とアメリカとの間で大きく異なっています。また2008年には石油、天然ガス、石炭の利用に5500億ドルの補助金が投じられています。これは再生可能エネルギー支援のために投じられた額の12倍に相当します。従って、再生可能エネルギーの普及は遅れ、エネルギーをより効率よく利用しようとする努力も限定的なものとなっています。さらに化石エネルギーの埋蔵量がまだ豊富にあることも、方向転換に消極的な態度を生み出しています。