*** 少女マンガ・ページ別読書案内・16p-3 ***
行間を味わう間奏曲
----清原なつの「お買い物」を読む
清原なつのが売り出し中の頃、なぜか男子大学生の間で密かな人気があると言われていました。
当時、24年組が「少年まんがに負けない」少女まんがで注目を集めるようになっていましたが、
清原なつのはそれほどの気負いもなく、それでもどこかが違う佳作を次々と発表していました。
それは、センスという言葉が一番似つかわしいでしょう。
そのセンスの良い知的なユーモアは、登場人物の会話はもとより背景の小物や作品タイトルにまで及んでいます。
けっしてアツくならないセンスの良い登場人物たちは、どこか自分を客観視していて、
たとえ不本意なものであっても目の前の現実をきちんと受けとめようとします。
それでいて、自暴自棄になることなく、最後まで自分の進むべき道を見つけることを忘れません。
だから、清原なつのの物語には、波瀾万丈な展開はありません。夢のようなクライマックスも待っていません。
しかし、たとえ現実に打ちのめされてしまっても消すことができない静かな意志と希望が、
やさしく確かに読者をつつみ込んでくれるのです。
さて、この作品もそんな物語の一つです。
主人公は、ずいぶん古いタイプのアンドロイドです。
(さきほど、夢のようなクライマックスはないと書きましたが、夢のような設定はあたりまえにあります。)
家事労働をしている彼女は、家計の残りで自分のアップグレードキットを買おうとしますが、
彼女が古すぎるため使うことができません。そこで、改造の見積もりをとりますが。。。
たった8pですから、それほど特別な物語があるわけではありません。
タイトルどおり、ちょっとした「お買い物」をするとかしないとか、それだけの作品です。
しかし、その目配りの効いた世界は、8pでも十分に雄弁です。
アンドロイドが自分でアップグレードキットを買う世界ですから、箱には「古い君もバージョンアップ」と書いてあります。
アンドロイドの改造を請け負う店には「古道具屋」の看板があります。
左手を上げて袖をまくりあげるポーズは、彼女の「型番」がふだん人に見せることのない腋の下にあるためなのでしょう。
何も説明しなくても、一つ一つの画面や言葉から、この物語の世界がどんどん見えてきます。
むしろ、その背景にあるであろうもっと大きな物語に思いをはせてしまうほどです。
まだ描かれてから日が浅いので、この作品が今後新たな連作へと発展していくのかについてはわかりませんが、
萩尾望都の「ポーの一族」や竹宮惠子の「私を月まで連れてって!」もまた
「すきとおった銀の髪」や「夢見るマーズポート」という小品から始まったことを思い出しました。
ほんの一瞬を切り取っただけでも、その世界を強く感じさせくれる間奏曲のような、とでもいいましょうか。
* 清原なつの「お買い物」(1998/「千の王国百の城」・ハヤカワ文庫・2001)
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