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少女マンガ・ページ別読書案内・16p-1 ***
たった16ページの大河ドラマ
----萩尾望都「半神」を読む(フリーペーパーハイネno1・2000.11.10に加筆)
16ページから始めたのは読み返す手間の問題も大きいのですが、
16ページという長さがいわゆるマンガ・スクールの基本となっているということもあります。
それは、逆に言うと、プロならば16ページの長さにどれだけのことができるのだろうか、ということです。
そこで第1回目は、プロ中のプロ萩尾望都です。
出世作が「ポーの一族」というくらいは紹介できても、代表作をあげていくだけでページが埋まってしまいかねない大家です。
SF大作から現在連載中の「残酷な神が支配する」のような心理劇までオールラウンドプレイヤーの萩尾望都が、
突然ふっと描いたのが「半神」でした。
美しく生まれ、誰からも愛され、発達の遅れさえ「天使のような」と言われる双生児の妹と、
頭脳明晰で醜く生まれた姉。そんなうんざりとするような状況の姉のもとに現われた逆転の可能性。
この不条
理な状況を萩尾望都は、ほんの数ページでさらりと、それでいてしっかりと私たちの前に見せてくれます。
この世に生まれてからまったく割にあわない人生を送ってきた双子の姉は、
このチャンスにどんな幸せをつかむことができるのでしょうか。
今でも、
この作品をはじめて読んだ時のことを忘れません。
そんなに長くはないと思ったものの、ページ数を数えて本当に16ページしかなかったことを確認したときの感動。
どうして16ページしかないのに、こんなにたくさんのことを、こんなにたくさんの思いを乗せることができたのだろう。
「半神」
というタイトルは、まさに半身であった双子の妹に「神」を重ねた姉の思いを表わしているのでしょう。
この双子の姉妹をめぐる救いや思い、そして願いを、どうぞ16ページという「長さ」の中から感じとってください。
そこには、長編の大河ドラマにさえ匹敵する人生の深さや重さをみつけることができることでしょう。
そして、
こんな重いテーマでありながら(むしろ、重いテーマであるからこそ、でしょうか)、
この作品は4ページずつの起承転結というマンガ・スクールの基本をきちんとふまえて描かれているのです。
それは、プロの技というものの神髄を、心地よいほどに私たちに見せつけてくれているといってよいでしょう。
16ページでどれほど劇的な物語を作ることができるのか。それに対して萩尾望都は、ここまでの答えを用意しました。
だから、「こんな夜は、涙が止まらない。」
* 萩尾望都「半神」(1984/萩尾望都作品集第9巻「半神」・小学館・1985)
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