ヒットマンとHBK part5



アメプロの世界でフィニッシュホールドの重要性はいまさら述べるまでもありませんが、かと言ってフィニッシュ技だけではプロレスの試合は作れません。
今回は、ヒットマンとHBKの持ち技を見ていきたいと思います。



まずはヒットマンから。
ヒットマンの持ち技の中で大技となると、ペンジュラムバックブリーカー、ブルドッキングヘッドロック、パイルドライバー、DDT、バックドロップ、ブレーンバスター、河津落とし、ドロップキック、足4の字固めなどとなるでしょうか。どれもフィニッシュに用いることはまずありませんが、使い方次第ではどれもフィニッシュになり得るほどの完成度を誇っています。
そして、フィニッシュ以外の一番の大技がスーパープレックス(雪崩式ブレーンバスター)となっています。

また、いわゆる繋ぎ技として使っているヘッドバット、エルボースマッシュ、ギロチンドロップ、エルボードロップ、ストマックパンチなども、手を抜くことなく確実に決めますし、回転エビ固め、フライングボディアタック、ジャーマンスープレックスなどのたまにしか使わない技でも、極めて正確に技を決めてきます。

こうして見ていくと、ハッキリ言って文句のつけようがありません。
これだけ多くの技を全て「名手」と呼べるほど上手く使いこなす選手というのは、ヒットマン以外にいないと思います。


そんな中から、上では挙げなかった技を2つほどピックアップしてみたいと思います。

一つ目は「パンチ」です。
アメリカのプロレスではパンチはほぼ全レスラーが使う技で、逆にチョップや格闘キックを使う選手というのはあまりいません。パンチといっても拳で殴るのではなく、拳の内側の辺りから手首にかけての部分で殴るものです。
ヒットマンのドキュメンタリー映画・レスリングウィズシャドウズの中でも「俺のパンチは説得力があるだろう」と語るシーンがありますので、本人も自信を持っていたようですが、ヒットマンのパンチは全レスラーの中でも「重さ」にかけては一番だったと思います。

二つ目は「カウンターのキック」です。
これはコーナーに振られて、それを追って突っ込んできた相手に対して16文キックのタイミングで足を出すもので、プロレスの試合では極めて一般的に使われている技です。
多くのレスラーは足を出すだけなのに対し、ヒットマンは相手の顔面めがけて右足を鋭く突き出します。92年サマースラムでの対ブリティッシュ・ブルドッグ戦が最も分かりやすいのですが、とにかくエグいです(笑)。この妥協の無さは、ヒットマンの技について端的に表していると思います。



続いてHBKの持ち技を分析したいと思うのですが、基本的には受け主体のレスラーですので、それほど持ち技は多くありません。そのうえ比べる相手がヒットマンとなれば、見劣りするのは致し方のないところです。

フライングフォーアーム、ムーンサルトアタック、ダイビングエルボードロップ、パイルドライバー、足4の字固め、などがフィニッシュにもなりうる技として挙げられます。
シングルプレイヤーに転向した頃に盛んにフィニッシュとして用いていた変形バックドロップは、スウィート・チンの開発とともにパッタリと使わなくなってしまいました。

さてそんなHBKもWM12のアイアンマンマッチでは、珍しい技をいくつか披露してくれました。フィッシャーマンズスープレックス、ドクターボム、腕ひしぎ逆十字固めなどなど。
そして、私が一番驚いたのが“アームバーの攻防”でした。腕ひしぎ逆十字と似た体勢で腕を引っ張るこの技、HBKが技を掛けてヒットマンはひっくり返そうと上体を起こしてくる……がHBKが力を入れて再びヒットマンは仰向けに、という攻防が見られたのです。
日本でも90年代では馬場さんが後楽園ホールでドリー・ファンクJrを相手にした時(馬場さんなりにオールドファンを意識しているわけです)くらいしか見られなかった超クラシックな技です。それを96年にWMのメインイベントで見ることになるとは思ってもいませんでした。

いざとなれば、こういうクラシックな技を使うことが出来るという点が、HBKの奥深さの一つであると思います。



ここまでは単発の技について話してきましたが、技の繋ぎについてもお話ししてみたいと思います。

まずはヒットマンが使うラリアットについて。ラリアットというと最近はむやみに乱発するだけの選手が多いのですが、ヒットマンはラリアットの後(たいていは)素早くスリーパーホールドに捕らえます。ラリアットとスリーパーの間が極端に短いのが特徴で、実に理に適っています。
先ほど挙げたヘッドバットやストマックパンチも理由もなく出すのではなく、繋ぎ技として攻撃を円滑に続けるために実に効果的に使います。

HBKは「素早くお互いの技を何度か返していった末に、ドーンと技が決まる」という流れを得意としていました。
特に92年サバイバーシリーズでの対ヒットマン戦で、終盤これを連発したシーンはまさに圧巻でした。
一つ実例を挙げますと、 ヒットマンがバックドロップの体勢 -> HBKは回転して後ろに着地してバックをとる -> ヒットマンがバックを取り返す -> HBKがリング外の方へダッシュ -> HBKがスッと身を屈めヒットマンが場外転落 、といった感じです。


技の危険度を上げたり、体を張った攻防をすればそれだけで観客の拍手を浴びたりする傾向がありますが(特に日本では)、技の正確さや技の連携を大事にする心をレスラーも我々観客も忘れてはいけないでしょうね。



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技の話5「フランケンシュタイナー」



フランケンシュタイナー(以下、FS)という技が日本で初公開されたのは、91年3月21日東京ドームでのことです。技を掛けたのは“元祖”スコット・スタイナーで、犠牲者第一号は佐々木健介でした。
スコットはFSを89年にWCW入りした頃から使っていましたが、この日本初公開は実に衝撃的で、以後FSはスコットの代名詞的技となりました。
FSという名前も、妖怪のフランケンシュタインとスコットの姓のスタイナーをかけたものだそうです(何故、フランケンシュタインなのかは不明ですが…)。


スコットの初公開以来、なかなか他の使い手は現れなかったのですが、しばらくしてからダグ・ファーナスや武藤敬二らが使い出しました。
ファーナスはジャンプ力と脚力には絶対の自信を持っていましたが、自分よりも大きい選手に仕掛けた場合は、パワーボムで返されることが多かったように思います。それほど大柄な選手ではないので、切り返されるシーンが目立ちました。
武藤もジャンプ力は素晴らしいですし、両足を相手の頭に挟む動作も抜群のキレを持ってます。が、その後の受身(後述)があまり上手くありません。武藤は上背があるのが、逆に仇となっているようですね。

私が、元祖スコット以外で名手に挙げたいのはハヤブサです。
それほど大きい選手ではありませんので、スーパーヘビー級の選手にはあまり決めませんが、吸い付くように相手をキャッチし、全身をしならせて相手を投げきるFSは、ハヤブサの数多くの技の中でも屈指の完成度を誇っています。

スコットのFSでは、足を相手の首に巻き付けた後、半ば“ひとりパワーボム”の格好で受身を取り、そこから脚力を使って相手をマットに叩きつけます。ちょうど三沢の“投げ捨てジャーマンに対する受身”のような体勢(分かりにくいですかね?)です。つまり技を掛ける方も多大なダメージを被るのがFSという技なのです。
ところが、ハヤブサは持ち前の柔軟さを生かすことにより(空中でブリッジ並に体を曲げます)ひとりパワーボムにはならずにFSを決めています。



さて、よくある議論として「どこからがウラカン・ラナで、どこからがFSなのか?」というのがあります。

確かに似た技ですのでなかなか区別がつきにくいですが、大前提として「ウラカン・ラナは変形回転エビ固め、FSは変形フライングヘッドシサーズ」ということが言えます。

相手の首に両足を巻き付けるところまでは同じです。
そこから相手の股の間に入り込んでいくのがウラカン・ラナで、レイ・ミステリオJrがシコシスに決めるウルトラ・ウラカン・ラナはまさに完璧な一撃でした。
一方、少し右(もしくは左)に体を捻りながら足で振り投げるようにして相手の頭をマットに突き刺すのがFSです。

余談ですが、元々ウラカン・ラナという技は、掛ける方が肩車から前方回転してエビに固める技で(キン肉マンという漫画でメキシカン・ローリングクラッチホールドと呼ばれていた)、ここで議題にしているウラカン・ラナはウラカン・ラナ・インディベルダ(インディベルダとは英語で“リバース”)というのが正式名称なのだそうです。


さて、もう一つややこしい話として、ヘッドシサーズホイップという技があります。
自分の体を水平にし真横に回転させるのがヘッドシサーズホイップで、相手は頭からマットに突っ込むことはない、というのが私の中でのFSとの区別のつけ方です。
が、体の捻りが微妙な場合もありますし、カウンターでヘッドシサーズホイップを決めるとFS、ジャンプしてワンアクションで相手の頭に首を巻き付けるのがFS、等という意見を聞いたことがあります。さらにコルバタやコークスクリューシサーズなどという技もありますので、かなり迷宮入りな感じです。
プロレスの技には公式な定義というのが無いので、(ウラカン・ラナの名称にしてもそうですが)曖昧なままというのが多々ありますね。



FSの派生技として雪崩式FSがあります。
雪崩式を使い出したのは獣神サンダーライガーですが、その後ジュニア選手の間で「猫も杓子も雪崩式FS」といった具合で大流行し、そのせいで一撃必殺の大技というイメージはなくなってしまいました。
また、相手は明らかに背中から落下していますので、FSという名前が適切かどうかも疑問であります。

企画・協力 城ありさ




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ヒットマンとHBK part4



アメリカのプロレスでは、いい試合をするだけでは生き残れません。レスラーとしての技量以外に必要なものとして、キャラクター・マイクアピール・ギミックなどが挙げられます。
ヒットマンとHBKのリング内外でのパフォーマンスについて見てみましょう。


二人ともルックスに関しては、恵まれていると思います。まあ、体格に関しては二人とも恵まれていなかったわけですから、神様もそこまで不平等ではないということでしょうかね。

マイクアピールですが、二人とも見かけによらず(?)野太い声で、なまりも入ってるそうなので(ヒットマンはカナダなまり、HBKは南部なまり)、私のように英語の苦手な日本人にとってはあまり聞き取り易い声ではないでしょうね。

ヒットマンには地味という評価が一般的にされていますが、ピンクとブラックのコスチュームに身を包み、サングラス(ヒットマン・シェードといいます)をビシッとつけての入場シーンは、なかなか派手であったと思います。
HBKの入場シーンといえば、WM12でのロープを伝って降りてきたものが最も有名です。世界ヘビー級を獲ってからは、リング中央でポーズを決めると後ろで火花がパンパンと順番に上がっていくパフォーマンスが定着しましたね。コスチュームも派手な色のを何着も持っていたようで、かなり華やかでした。

また、HBKは試合中のパフォーマンスとして、リッキー・フジやダニー・クロファットが得意な(?)タイツずらしをよくやっていました。こういうパフォーマンスは、ヒットマンなら絶っっ対にやらなかったことですね。



アメプロですから、それなりに予告編的な試合や(RAWなどで)試合以外がメインとなるようなこともあります。
しかしそれでも、ヒットマンがレスリングに対する誇りと己自身へのプライドを兼ね備えている男、であるというのは彼の試合を見ていれば分かりますし、インタビューなどを見てもイメージ通りの人物であることが分かります。

一方のHBKは“おちゃらけ路線”が得意ですし、なんとなく軟派な雰囲気のある選手です。
が、実は試合中にカメラマンとぶつかると、「何故そこまで!?」というくらい怒る人なのです。さらにサバイバーシリーズ97の試合後に、選手に無断で試合を終わらされたことに対して怒りを露にしていました。
この辺りは、試合中のリングは聖域であり、レスラー・レフェリー以外が足を踏み入れてはいけない、という信念を持っていることの表れでしょう。


やはり二人のプロレスの根底にあるものは、「ハイグレードな試合に対するこだわり」なのでしょう。



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